企業にとって、「代金未回収」は避けるべきリスクの一つです。日常的な取引において「請求書を送ったのに、期日通りに支払いが行われない」という事態は珍しくありません。また、忙しい日常業務の中で、「請求書をうっかり送るのを忘れてしまった」ということもあるかもしれません。その際、気にしていただきたいのが「請求書の有効期限」です。実は、請求書には法律で定められた有効期限があり、その期限を過ぎると、債権が消失する可能性があるのです。本稿では、請求書の有効期限と、代金が支払われなかった場合の対処についてご紹介します。
請求書の有効期限
2020年に民法改正が行われて、請求書の支払い時効期間はこれまでの2年から5年に統一されました。
支払期日の翌日から5年間の間に債権が行使されなければ、請求書の有効期限が切れてしまい債権が法的に消失するということです。特に注意したい点は、「請求書を送るだけではこの期限を延ばすことはできない」ということです。誤解しがちですが、請求書を何度送っても有効期限を延ばすことはできません。しかし、有効期限を中断することは可能です。例外的に2020年3月31日以前に商品やサービスを提供し、代金が発生した場合請求書の時効は2年です。
請求書の有効期限を中断するためには、請求ではなく「催告」という行為が必要になります。
請求書の有効期限を中断する行為「催告」について
催告とは裁判所に支払い督促申立など、権利の主張を行うことです。請求も広義の意味では催告という行為に含まれますが、あくまで「代金を支払ってください」という通知に過ぎないため、請求書を送付し続けても有効期限を中断することはできないので注意しましょう。
請求書の有効期限を中断するためには催告が必要です。ただし、催告といっても複数の種類があるため、取引内容や状況に応じて方法を選択することがポイントです。
- 訴状の提出
訴状が提出された時点で請求書の有効期限が中断します。しかし、訴訟を起こすには時間や手間がかかるため、迅速な対応が求められる場合は他の方法を検討する必要があります。
- 支払い催促
簡易裁判所に支払い催促を申し立てる方法です。契約書や債務確認書といった証拠品を提出し、申立ての主張から請求に理由があると認められる場合には、債務者に対して支払いを命じます。この方法は比較的迅速で、低コストで済む点が魅力です。
- 調停申し立て
裁判所に調停を申し立て、第三者が介入して、双方の歩み寄りを図る方法です。調停委員会が両者の意見を聞き、合意形成を促します。こちらも時間はかかりますが、円満解決を目指す場合には有効な手段です。
- 即決和解申し立て
訴状を提出する前に、和解の申し立てをする方法です。裁判所を通すことなく和解できるため、余計な費用を抑えることができます。ただし、和解後に1カ月以内に訴状を提出しなければ、請求書の有効期限の効力が無くなってしまうことに注意が必要です。
- 催促書類の提出
内容証明郵便で催促書類を送ることも、請求書の有効期限を中断させる手続きです。裁判になる前に「返済してほしい」という内容の書類を債権者から債務者に向けて、内容証明郵便で送付することで一時的に請求書の有効期限を中断できます。
- 差し押さえ
裁判所が強制執行を許可した場合、債権者は債務者の財産を差し押さえることができます。これにより請求書の有効期限が中断されますが、差し押さえには一定のリスクも伴います。すべての財産を差し押さえられるわけではなく、かつ判決が得られていない状態で債務者の預金などを拘束するため、債務者への配慮が必要です。
- 債務の承認
債務の承認とは、債務者が債務の存在を認めることです。債務者が1円でも返済しており、支払い約束証などにサインをした場合、債務の承認にあたり請求書の有効期限が中断します。さらに、債務の承認は時効期間が満了した場合でも請求書の有効期限を中断する効果があります。
段階的な請求について
1回目の代金支払期日において、請求書を送付したにもかかわらずそれに応じてもらえなかった場合、即座に催告行為に出るのではなく、一般常識的な配慮を含ませて別の請求行為を行うのが一般的です。請求に応じなかった理由が一部でも自身にある可能性も考慮し、しっかりと事実確認を行った上で、なぜ取引先が代金を支払わないのか?という理由を明確にすることが大切です。ここでは、取引先から代金が支払われなかった場合の行為について、段階的に説明します。
1. 販売側に問題がないか確認
代金支払いが確認されない請求案件に関しては、最初に販売側(自社)に問題がないかを確認しましょう。請求先の間違いや請求内容の間違いによって、取引先で請求が受理されていないケースが考えられます。本来なら請求書の送付に関係なく代金は支払われるべきものですが、取引先によっては請求書受理のプロセスが完了しないと代金を支払えないルールを設けているかもしれません。間違いを改めて請求書を再送すれば、スムーズに代金を回収できる場合がほとんどです。
2.メールまたは電話でコンタクトを取る
販売側の請求書や対応に間違いがなかった場合は、メールまたは電話にて取引先の支払い担当者とコンタクトを取ってみましょう。電話の方が迅速に状況を把握でき、対応もスムーズです。販売側の意向を伝えやすく、支払い遅延の理由が明確になり、柔軟に対応するためのヒントが得られることがあります。念頭に置いていただきたいのは、「この時点でも販売側(自社)の問題で代金が支払われていないケースがある」ことです。
提供した商品やサービスに対して認識齟齬やクレームが入っている場合、代金が支払われないことが考えられますし、その情報を知らずに催促の連絡を取ると取引先を怒らせる結果になる場合があります。カスタマーサービスや営業部門、請求部門が分離している場合は、各部門での情報共有をしっかりと行っておきましょう。
クレームなどもない場合は代金請求を直接的に行います。取引先にも事情があるので、猶予できる事情かどうかを十分に検討した上で次の代金支払期日を設定し、取引先に伝えましょう。ちなみに電話の内容は録音するかして、後々「言った」「言っていない」のトラブルが発生しないよう注意してください。
3. 催促状を送付する
メールや電話などによる直接的なコンタクトにもかかわらず期日通りの代金支払いが確認できなかった場合は、催促状を送付します。督促と催促の意味合いは似ていますが、督促の方が強制力を持たせているというニュアンスがあります。催促状では「未払金に関し、〇月×日までに確実な支払いをお願い申し上げます」といった文言で、代金支払いを催促します。催促状は正式な書面として送付することをおすすめしますが、代金未払いに対して催促したという事実が大切なので、電報など簡易的な連絡手段でも問題ありません。
4. 督促状を送付する
催促状を送付しても期日までの代金支払いが確認できなかった場合は、督促状を送付します。督促状では支払いに強制力を持たせるために内容証明郵便で送付し、「〇月×日までに未払金の支払いが確認できなかった場合は、法的処置に移らせていただきます」といった文言を掲載します。内容証明郵便で送付することで、「誰が誰に、どんな内容の文書を送付したのか」を郵便局が証明してくれるため、法的効力を持たせられます。
関連記事 督促状と催促状の違いは?督促状の書き方や例文を紹介
5. 法的処置を取る
再三の督促行為にもかかわらず代金支払いが確認できなかった場合は、最終手段として法的手続きを進めます。前述した訴訟や調停、強制執行など、状況に応じて適切な手続きを選びます。
代金未回収リスクを低減させるために
いかがでしょうか?請求書には有効期限があることから、期日通りに代金が支払われなかった場合は適切に管理して、2年以内の債権を行使するようにしましょう。
また、代金が支払わなかった際の対策だけを考えるのではなく、前段階として代金未回収リスクを低減するためも活動も大切です。代金未回収のリスクを最小限に抑えるためには、取引開始前から慎重に与信管理を行うことが重要です。信用調査を行い、取引先の支払い能力や信頼性を把握しておくことが、リスク回避につながります。また、信頼できる決済サービスや掛け払いサービスを活用することで、未回収のリスクを低減できます。
たとえば、クロネコ掛け払いなどのサービスは、債権回収を全面的にサポートします。これにより、取引先の支払い能力に問題があった場合でも、適切にリスクを分散させることが可能です。この機会にご検討いただければ幸いです。
- カテゴリ:
- クロネコ掛け払い