与信とは「信用を供与する」の略です。企業間取引は頻繁かつ継続的に取引が発生するため、その都度現金の受け渡しをするのは非効率かつ面倒が多く、売り手と買い手双方にとってあまりメリットがありません。そのため与信取引といって、取引先に信用を供与することで商品やサービスの売買を行い、取引額に応じて請求を後から行います。
しかし、与信取引には常に不確実性(リスク)が存在します。契約書を交わしたといっても信用だけで取引が成り立っているようなものなので、将来確実に代金を回収できる保証はありません。従って与信取引ではこうしたリスクを継続的に管理し、代金が支払われない「焦げ付き」や「貸し倒れ」といった損失を回避することが大切です。この一連の管理を与信管理といいます。
今回は与信管理について詳しく解説し、その方法まで提示していきます。
与信管理はなぜ大切か
与信取引において焦げ付きや貸し倒れが発生すると経営に様々な悪影響が及びます。まず目に見えて発生する影響が利益面の損失です。たとえば利益率が10%の取引において1,000万円の焦げ付きが発生すると、その損失を取り戻すためにはいくら売り上げればよいでしょうか?
1,000万円を同じ利率10%で割ればいいので、1,000万円÷10%でその金額は1億円に上ります。つまり1,000万円の利益を取り戻すためには、さらに1億円売上なければならないということです。
追加で1億円の売上を出すための営業努力は計り知れません。なので、与信取引が焦げ付くと企業が被る経済的、リソース的負担はかなり大きく膨れ上がってしまいます。
焦げ付きによって利益面での損害が発生すると資金繰りにも影響が出ます。企業とは取引によって得た利益で自社の買掛金を支払ったり事業に投資をしたりするので、たとえば1,000万円の焦げ付きが発生すると別の場所からその金額を捻出するか、投資を断念する必要があります。最悪の場合、資金繰りの計画が狂って仕入れ先に代金を支払えず「連鎖倒産」になる可能性も…。売上は順調なのに倒産してしまう会社の多くが、焦げ付きによって資金繰りが困難になったケースです。
さらに、与信取引の焦げ付きによる悪影響はこれだけで終わりません。その影響は自社の信用問題にも及びます。焦げ付きが頻繁に発生すると他の取引先から「取引先の管理能力が低い会社」というレッテルを貼られてしまい、結果として信頼を失っていきます。すると安価な仕入れ先から品質が安定したモノを仕入れることもできなくなったり、取引条件が悪くなったりして悪循環となり、最後には自社の経営が破綻していきます。したがって与信管理は単なる自社の売上の回収と思うだけでは不十分なのです。
与信管理は自社の利益を守り資金繰り計画を確実に遂行するという目的のほか、企業自身の「信用」を守るという役割もあるのです。
与信管理の方法とは
与信管理を行うには大きく分けて2つのプロセスがあります。それが与信の承認プロセスと与信取引後の管理プロセスです。各プロセスについて解説します。
①与信承認プロセス
最初のプロセスは取引発生に際し、取引先の情報を収集してさまざまな角度から分析を行い、取引先の信用を判断した上で取引の可否を決めます。これを与信調査といいます。
与信調査の方法は3つあります。内部調査と直接調査、それと外部調査です。内部調査は既に取引のある企業への与信調査の際に、社内に蓄積された情報をもとに調査し、信用を判断します。直接調査とは取引先に直接赴いたり、電話やメール・FAXで与信調査を行うという方法です。外部調査は帝国データバンクなど第三者企業が持つデータベースをもとに取引先の信用を判断します。
与信調査を行って取引先の信用を評価したら与信限度を決めます。これは「いくらまでなら掛け売りしてもよいですよ」ということに関する承認行為であり、主に営業担当者が必要な与信限度を決定して管理部門に申請します。与信限度が決まればいよいよ取引開始です。取引先と契約内容の調整と確認を十分に行った上で契約を取り交わし、取引を始めます。
②与信取引後の管理プロセス
取引が開始したからといって終了しないのが与信管理です。与信取引後は信用を管理するというより、債権や与信限度を管理するという意味合いが強くなります。
まず重要なのが債権管理です。決済条件に従って売掛金が確実に支払われているかを確認して焦げ付きがないかを慎重にチェックします。焦げ付きリスクを回避するために支払い期限に応じて請求書を発行・送付したり、代金支払いが遅れている場合は催促をします。債権管理は自社の利益と信用を守るために欠かせない管理です。
この “債権管理” について詳しくは、こちらの「債権管理とは?具体的に何をすれば良いの?」記事でぜひご覧ください。
債権管理と同じくらい重要なのが与信限度管理です。各企業との取引情報を整理して、与信限度に近づいている取引、与信限度をオーバーしている取引、与信限度の期限が切れている取引を抽出して適宜是正を加えていきます。
与信限度管理を徹底するためには取引がスムーズに行われてる取引先に対しても定期的な見直しをすることが大切です。与信承認プロセスで行った与信調査をもう一度行い、現時点での信用を評価します。主に内部調査が中心になってくるので、新規取引先における与信調査よりも手間はかからないでしょう。
そのほか、代金支払いに遅延が生じていたり焦げ付きのリスクがある問題案件を管理し、取引先の倒産によって焦げ付きが発生しそうな場合は早期に回収活動を行って少しでも損害を抑えることも大切です。
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与信管理で大切なこと
与信管理を徹底する上で大切なことは危機管理能力です。特に、営業部門における危機管理能力を最大限高めることで焦げ付きなどのリスクを大幅に回避できます。
取引先と直接やり取りをするのは営業担当者であり、新規取引先の与信調査を行うことも多いでしょう。つまるところ、与信調査は営業担当者の主観によって決定する部分が多く、そのため営業部門の危機管理能力が与信管理を徹底できるかどうかに直結します。
そこで与信管理を徹底するためのポイントとしては、細かい与信基準を設けて与信調査を極力マニュアル化するということです。主観は営業担当者ごとに異なるため、与信調査にバラつきが生まれるとその分リスクが大きくなります。なので、与信基準とプロセスを明確にすれば営業担当者ごとのバラつきを低減し与信管理を徹底できます。
「与信調査」について詳しくは、こちらの「与信審査とは?その重要性とやり方について」記事で是非ご覧ください。
その一方で、与信基準やプロセスには多少の曖昧さを残しておくことも大切です。たとえば与信基準は満たしていないが将来的に成長する見込みがあり、取引拡大の可能性がある新規顧客などを逃してしまうと自社にとって大きな損失になる可能性があります。基準とマニュアルでガチガチに固めるのではなく、時にはビジネス的な判断をするために営業担当者の主観も適宜取り入れて与信管理を行うと継続的に成長する企業体質を作り上げていけるでしょう。
与信管理をアウトソーシングする方法も
リソースの関係で与信管理の内製化が難しかったり、生産性を向上したいという場合は与信管理のアウトソーシングを利用するという方法もあります。たとえばヤマトクレジットファイナンスが提供する「クロネコ掛け払い」は、与信管理を含め企業間取引における掛け払い業務のすべてを代行できます。こうしたサービスを利用することで、生産性の向上はもちろん与信管理の徹底にもつながり、自社利益と信用を守りながら与信リスクを回避することができるでしょう。
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