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仕入債務回転期間と回転率について徹底解説


経理の基本的な指標である「仕入債務回転期間」とその「回転率」は、ビジネス運営において非常に重要な要素です。これらの指標が示す意味と、その計算方法についてしっかりと理解しておくことは、経営の健全性を把握するために欠かせません。本稿では、仕入債務回転期間と回転率の概要から計算方法、さらにその活用方法までを解説します。企業経営における数字の読み解き方を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

仕入債務回転期間とは?

「仕入債務(しいれさいむ)」とは、未払いの支払代金のことを指します。企業が仕入れた商品やサービスの代金をまだ支払っていない状態で、仕入れの際に発生した買掛金や支払手形が該当します。決算書では負債項目に表示される代金のことです。仕入債務回転期間は、その支払義務を果たすまでにかかる期間を示します。つまり、「仕入れから代金を支払うまでの期間」を指すのが仕入債務回転期間です。

  • 仕入債務が生まれる⇒商品等を他社から購入し、その代金を後払いにしたとき
  • 仕入債務が無くなる⇒後払いにしていた代金を支払ったとき

この期間が長いと、企業は支払いを先延ばしにしていることになり、キャッシュフローに影響を与える可能性があります。逆に短すぎると、仕入れに対する支払いが過度に早いことを意味し、資金繰りに課題を抱えているかもしれません。適切な仕入債務回転期間を保つことは、事業運営において重要なバランスを取るための指標となります。

仕入債務回転期間の必要性

負債である支払債務は、先に述べたように大きくなるほど将来的に資金繰りが苦しくなる可能性があります。より多くの商品を仕入れるわけですから、仕入れに対して販売数が伸びなければ、代金を支払うためのキャッシュが手元に残りません。また、すでに資金繰りが苦しくなっていることを示す場合もあります。

一方、事業が成長すると売上高だけでなく、資産と負債の規模も大きくなる傾向があります。その際に、会社の事業規模と照らし合わせて「仕入れ債務が増えすぎていないか?」を判断するために必要なのが、仕入債務回転期間という指標です。

仕入債務回転期間の計算方法

仕入債務回転期間を計算するためには、仕入れた商品の代金(仕入債務)と月間の仕入れ額を把握する必要があります。計算式は次の通りです。

 

仕入債務回転期間(月) = 仕入債務 ÷ 1か月あたりの仕入れ額

 

ここで、「1か月あたりの仕入れ額」を求めるためには、月単位での仕入れ額を把握する必要があります。日数単位で計算したい場合は、「1か月あたりの仕入れ額」を「1日あたりの仕入れ額」に換算して計算します。

仕入債務回転期間の計算式では仕入債務に何か月分の仕入高が溜まっているかを計算しています。たとえば毎月100万円の仕入れを行い、仕入代金を仕入れの翌々月末に支払っていると仮定します。

例えば、毎月100万円の仕入れを行い、その支払いが2ヶ月後に行われると仮定すると、仕入れサイクルは次のようになります。

  • 1月の仕入れ分は3月末に支払い
  • 2月の仕入れ分は4月末に支払い
  • 3月の仕入れ分は5月末に支払い

この場合、2月末における仕入債務は1月と2月分の200万円となり、3月末には2月と3月分の200万円が残ります。毎月末日には直前2か月分の仕入が仕入れ債務として残っているというわけです。

ここで仕入債務回転期間の計算式を利用し、3月末の仕入債務回転期間を求めてみます。

例)3月末の仕入債務回転期間

3月末時点での仕入債務回転期間は、以下のように計算されます。

 

200万円(2月末の仕入債務) ÷ 100万円(1か月あたりの仕入れ額) = 2ヶ月

 

つまり、仕入債務回転期間は2ヶ月となります。この計算結果は、毎月末に直前2ヶ月分の仕入れ額が仕入債務として残っていることを意味しています。言い換えれば、仕入れから代金支払いまでに2ヶ月かかるということです。

仕入高を調べるには?

仕入債務回転期間を正確に計算するためには、仕入高の情報が不可欠ですが、実際には決算書に直接記載されていない場合もあります。外部企業の仕入高を調べる場合、他の方法を用いる必要があります。

有価証券報告書を確認する

有価証券報告書を確認することが一つの方法です。特に、次のページをチェックすると仕入高の情報が記載されていることがあります。

  • 「第一部>第2事業の状況>生産、受注及び販売の状況(販売及び仕入の状況)」

ただし、すべての企業が仕入高を公開しているわけではないため、特に小売業以外の業種では、仕入高を確認するのが難しい場合もあります。

売上原価から仕入債務回転期間を計算する

仕入高が手に入らない場合、代わりに「売上原価」を用いて仕入債務回転期間を求める方法があります。これを使った計算式は次の通りです。

 

仕入債務回転期間(月) = 仕入債務 ÷ 1か月あたりの売上原価

 

売上原価は、仕入高と異なり、通常決算書に記載されています。そのため、売上原価を基にした計算は、仕入高が不明な場合でも活用できる方法です。ただし、売上原価と仕入高は一致しないため、この方法では厳密な仕入債務回転期間の数値を得ることはできません。しかし、推移を追うことで、企業の支払い状況や仕入れの効率性をある程度把握することが可能です。

日数単位での仕入債務回転期間を求める場合は、前述したのと同じように「1か月あたりの売上原価」を「1日あたりの売上原価」に換算して計算します。仕入債務回転期間は、仕入債務に何か月分の仕入高が溜まっている(決済されていない)かを計算することで、仕入れてから支払債務が決済されるまでの期間を求める指標です。

「仕入高の金額≠売上原価の金額」なので、計算式に売上原価を使った場合は、仕入高を使ったときほど仕入債務回転期間の本来の意味を表せなくなります。ただし、仕入債務回転期間を使用する目的は、企業の規模に照らして仕入債務が増えすぎていないかを知ることです。従って、計算式に売上原価を使っていても、仕入債務回転期間の数値の推移を追っていけば、事業の成長以上に仕入債務が膨らんだサイン(仕入債務回転期間の長期化)に気づくことができます。

仕入債務回転期間の回転率を計算する

仕入債務回転期間が長いからといって、単純に業績が悪化しているとは判断できません。取引内容や契約規約によって仕入債務回転期間が長期化しただけかもしれませんし、逆に仕入債務回転期間が短いからといって好調な業績というわけではないでしょう。

そこで、仕入債務回転率を計算し、回転率が適正かどうかを確認します。計算式は下記の通りです。

 

仕入債務回転率=(売上原価÷仕入債務)×100

 

たとえば、売り買いともに現金商売の場合では仕入債務が発生しないため、「(売上原価〇円÷仕入債務0円)×100」で、仕入れ債務回転率は計算不能です。

売上原価が1億円、仕入債務の期末残高が1,000万円の場合は「(売上原価1億円÷仕入債務1,000万円)×100」で仕入債務回転率は1,000%になります。売上原価が1億円、仕入債務の期末残高が2,000万円の場合は「(売上原価1億円÷仕入債務2,000万円)×100」で仕入債務回転率は500%になります。

仕入債務回転率の適正水準は1,200%以上が標準です。仕入債務回転率が標準にない場合、支払い効率が悪く、支払い条件の悪化や支払い遅延のリスクがたかっている可能性が高いことになります。

ちなみに、仕入債務回転率は現金商売や消費者相手の商売に比べて、卸売行や法人相手の商売の方が低くなる傾向にあるため、業界業種によって適正水準に差が生じることに注意が必要です。そのため、上記の適正水準に合致しない場合は、仕入債務回転率の推移を定点観測することをおすすめします。

定点観測の結果、仕入債務回転率が悪化しているようなら支払い効率が悪化している可能性が高いでしょう。

仕入債務回転期間と回転率を計算してみよう!

この記事で紹介した計算式を使って、実際に自社の仕入債務回転期間と回転率を計算してみましょう。これにより、自社の支払いサイクルが適切かどうかを把握でき、資金繰りの改善に役立てることができます。

仕入債務回転期間と回転率は、企業のキャッシュフロー管理において重要な指標です。これらの指標を正しく理解し、適切に計算することで、企業の健全な経営を支えるための大切な情報を得ることができます。自社の仕入債務回転期間が適切であるかどうかを定期的にチェックし、必要に応じて改善策を講じていきましょう。